この記事は、
・JSTQB FLには合格している
・テスト実務経験がだいたい3〜5年
・はじめてTM試験にチャレンジしようとしている
といったテストエンジニア/QAを主な対象読者として想定しています。
ベテランの方にも参考になる部分はありますが、基本的には
「現場でテストリーダを任されはじめた層が、働きながら合格するための現実的な戦略」として読んでいただければと思います。
TM試験は難易度が比較的高く、特に
・長い問題文から必要な情報を取りこぼさずに読み切る読解力
・テストマネジメントの知識を、具体的なシナリオに当てはめて答える応用力
この2点で多くの人が躓きます。
ただし、これは「センスのある一部の人しか合格できない」という意味ではありません。
私自身が実践した「インプット2割、アウトプット8割」の効率戦略と、AIを使ったデジタル学習法を組み合わせることで、
・勉強期間:1か月半
・総勉強時間:約80時間
・残業もそれなりにこなしながら
という条件で、一発合格することができました。
TM試験に興味がある方、これから受験を控えている方は、ぜひ学習計画づくりの材料にしてみてください。
TM試験の壁:FLとの決定的な違いと難易度の理由
TM試験の難易度について、インターネット上では実に様々な意見が飛び交っています。
・20時間で合格した
・400時間掛かった
・一度シラバス読んだだけで合格した
・合格まで3年掛かった
この、受験時間のバラつきには理由があります。
端的に言うならば、受験者の能力に大きな差があるということです。
JSTQBFL試験合格+3年以上の実務経験がTM試験の受験資格として必要になりますが、
この「3年以上」の部分の重みがかなり大きいです。
10年テスト業界に居るような実務経験モリモリのベテランもいれば、テスターとして3年経験してきて最近マネジメントを勉強しはじめたという若手まで、かなりの幅があるわけです。
この差をイメージせずに、インターネット上の意見だけを鵜吞みにして受験してしまうと、
想定以上に歯が立たず、不本意な結果になりやすい試験だと感じています。
なお、公式発表によると、FL試験では60%以上の合格率に対して、TM試験では10%〜30%の合格率とされています。
合格のための戦略を考えるにあたり、この実務経験において身に付けた内容の差が壁となるのだと理解する必要があります。
何ができている人なら20時間で受かるのか
その「壁」の中身をもう少し分解すると、日常の業務の中で次のようなことを、
・実際にやれているか
・そしてそれを自分の言葉で説明できるか
が問われていると言えます。
・テストプロセス管理
・テスト活動の計画・監視・コントロール
・リスクベースドテスト
・組織的テスト戦略
・テストチームの管理
・インシデント管理
これらを日頃から意識してマネジメントしており、さらにそれを言語化してアウトプットできる人であれば、極端な話ですが、20時間以下の学習時間で合格してしまってもおかしくありません。
ただし、ほとんどの人はそうではありません。安心してください。
私自身は、約80時間の学習で一発合格しましたが、読者にはあえて「100時間前後」を目安としておすすめしています。理由は3つあります。
1. 実務経験の差を吸収するクッションが必要だから
2. 理解しきれなかった論点を、直前期の復習で潰す時間を見込むべきだから
3. 仕事や家庭の事情で、計画どおりに進まない日が必ず出てくるから
このあたりを踏まえると、多くの人にとっては「80時間:かなり攻めたプラン」「100時間:現実的かつ安全寄りのプラン」という感覚になります。
1.5か月・80時間で合格した実際のスケジュール
イメージしやすいように、1.5か月・80時間をざっくり週次に割ったものを載せておきます。
・第1週:インプット集中(シラバス速読+読み上げ)…約3時間
・第2週:アウトプット1周目(問題演習+シラバス往復)…約12時間
・第3週前半:インプット集中(シラバス速読+読み上げ)…約3時間
・第3週後半~第4週:ISTQBサンプル問題+惰性アウトプット環境づくり…約28時間
・第5週前半:インプット集中(シラバス速読+読み上げ)…約3時間
・第5週後半~第6週:弱点つぶし+通し演習…約30時間
平日は1〜1.5時間、休日は2〜3時間を目安にして、合計80時間前後に収まるイメージです。
実際にスケジュールを考える場合は、自分の生活リズムに合わせて「残業多め週は減らす」「休日にまとめてやる」など、微調整してもらえればいいかと思います。
できればスケジュールのバッファも1週間から2週間くらいとっておきたいですね。
一般論としてまとめるならば、
・FL(Foundation Level)は「テスト全般の知識(理解度)を問う試験」
・TM(Test Manager)は「FLレベルの知識を前提に、テスト計画・実行・完了、チーム運営や組織への貢献といった“実務視点”でどう使うかを問う試験」
と言えます。
知識を「知っている」だけでなく、「組織の中でどう使うか」という応用力とそのアウトプットが求められるのがTM試験です。
「インプット2割、アウトプット8割」の実践戦略
働きながら合格を目指す上で、限られた時間をどこに投資するかはクリティカルです。
私が実際に採用したのは、「公式シラバスのインプット2割、アウトプット8割」という戦略でした。
ステップ1:最初の3時間でシラバスの全体像を把握する(インプット)
公式シラバスの読み方はいろいろありますが、最初から細かく読み込む必要はありません。
初期のインプットに使う時間は、最初の3時間で十分だと考えています。この3時間は、
> 「シラバス全体で何が問われるのか」
という構造をざっくり掴むためだけに使います。
私が行った具体的な方法は次の通りです。
・シラバス全体を高速で一読する
・半分くらい目がすべっても良いので、とにかく最後まで読み切る
・その後、読み上げ機能などを使ってもう一度通して聞く
・通勤時間や家事の合間に流し聞きして「章の雰囲気」を掴む
ここでは、内容を完璧に覚える必要は一切ありません。
「どんな章があって、どんな単語が出てくるか」が分かれば十分です。
ステップ2:最初の12時間でアウトプットの“型”を作る
インプットに対応する形で、その直後に12時間分のアウトプットをまとめて確保します。
ここで使ったのが、JSTQBソフトウェアテスト非認定問題集ALTMです。
やることはシンプルで、次のサイクルをひたすら回すだけです。
1. 問題を解く
2. 解説を読む
3. シラバスの該当箇所を読む
このとき、正解したかどうかは一切気にしません。
重要なのは、「なぜその選択肢が正解になるのか」を自分の言葉で説明できるかどうかです。
・シラバスに書いてある内容そのままであれば、
→ どの段落のどの一文を根拠にしているのかまでセットで覚える
・他の選択肢との比較で消去法になっている問題であれば、
→ 「このキーワードとこの数字から、この選択肢は外せる」と言える状態にする
似たような問題が出たときに、同じ理由で同じ選択肢を選べるかがアウトプットの質です。
> 【重要】
> アウトプットの本質は「自分の中で言語化できて、それを出力できるか」です。
> 「問題を解いていればアウトプット」ではありません。
最初の12時間でひと区切りついたら、スキマ時間で再度インプットを3時間ほど挟み、
その後また12時間アウトプットを行う…というサイクルを繰り返すイメージです。
うまくいかなかった勉強法
一方で、個人的に「これはあまり意味がなかった」と感じて途中でやめたやり方があります。
過去に多くの資格試験を受験した経験から、以下のような勉強方法はおすすめしません。
・テキストやシラバスを最初から最後まで丁寧に読み込もうとする
→ 途中で飽きて、アウトプットに入る前にモチベーションが下がる。
・問題集を次々と増やしてしまう
→ 問題の種類は増えるのですが、「なぜ間違えたのか」の分析が浅くなり、定着度はむしろ下がる。
このあたりの失敗を経て、
「問題分析が可能な範囲に絞った教材を、テキスト(シラバス)と往復しながら深掘りする」
というスタイルに落ち着いています。
AIとPythonを駆使!長文問題の時間不足を解消する自動化学習法
最初の「インプット+アウトプット」サイクルが一通り回ったところで、
次のアウトプット素材として、ISTQBのTMサンプル問題を使いました。
これはWeb検索すれば誰でも入手できますが、全編英語です。
ここで効いてくるのが、AIとPythonを組み合わせた自動化学習法です。
なお、ここではPythonを使った自作アプリを紹介していますが、
プログラミング未経験の方は、無理にPythonを使う必要はありません。
・ExcelやGoogleスプレッドシートに問題と選択肢を一覧化する
・行をランダムに選んで解く
・間違えた行だけ色を付けておき、後日そこだけ復習する
といったやり方でも、「惰性アウトプット」という考え方自体は十分に再現できます。
Pythonに抵抗がある方は、「問題選択を自動化して、思考停止で解き続けられる仕組み」を、手元のツールで代替してみてください。
時短テク1:AIで「惰性アウトプット」の環境を作る
AIを活用する最大のメリットは、
> 「どの問題集を開こうか」「どこから解こうか」を考えるコストをゼロにできる
ことです。
働きながらの勉強では、疲れている状態でも思考停止でアウトプットを継続できる環境が不可欠です。
私が実際にやった流れは次の通りです。
適宜、AIを使用するなどして作業を補助してもらうといいでしょう。
1. ISTQB TMサンプル問題と解説のPDFをダウンロードする
2. 日本語に翻訳する
3. 質問文・選択肢・正解・解説をテキスト化し、CSV形式に整える
4. そのCSVをPythonスクリプトから読み込み、
– ランダムに1問出題
– 自分で選択肢番号を入力
– 正解・解説を表示
– Enterで次の問題へ
という「ひたすら答え続けるだけの簡易アプリ」を自作(最初はCUIだけ、余裕が出てからTkinterで簡単なUIを付けました)
ポイントは、“何も考えなくてもアウトプットが続けられる装置”を作ることです。
この「惰性アウトプット法」のおかげで、
仕事終わりにPCを開いてスクリプトを実行するだけで、頭を使う前に自動的にアウトプットモードに入れるようになりました。
「問題を選ぶ」「ページをめくる」といった余計な作業がない分、実質的な学習時間を最大化できます。
また、とにかく5分は惰性でアプリをやる、これだけで作業興奮によって勉強の意欲が湧いてきます。
ちなみに「作業興奮」とは、心理学者エミール・クレペリンが提唱した「やる気がない状態でも、いったん行動を始めると、やる気が出て簡単に継続できるようになる心理現象のこと」です。
時短テク2:日本語訳の“粗さ”も味方にする
ISTQBのサンプル問題は全編英語なので、基本はAIに翻訳してもらいます。
翻訳された日本語だけでは解説が物足りないと感じることもありますが、その場合はシラバスの該当箇所を読んで補完すれば問題ありません。
一方で、今振り返ると、
> 「AIによる日本語訳をあえて粗めにして読解の訓練をしておけばよかった」
という反省点もあります。
本番の長文問題では、
・完璧な日本語ではない感じの少しだけ違和感がある文章
・情報が散らばったシナリオ
これを短時間で読み解く必要があります。
日本語訳の裏にある元の英文のニュアンスを想像しながら読む訓練は、
結果として長文読解のスピードアップにかなり効くと感じました。
「TM資格は意味ない?」に対する答え:現場で即戦力になる3つの武器
「資格なんて現場では意味がない」という意見は、ITの世界でもよく聞きます。
ただ、TM試験の勉強を通じて、現場で即日使える武器が3つ増えたと感じています。
武器1:テストを「コントロールできる」ようになる
TMで学ぶテストプロセス管理やリスクベースドテストのおかげで、
・どこを重点的にテストするのか
・どこは割り切ってリリースするのか
上記を、感覚ではなくリスクとビジネス優先度の言葉で説明できるようになりました。
これにより、
・「全部テストしてください」という雑な要求に対して、
→ リスクとコストのトレードオフを示しながら現実的なプランに落とし込む
・テスト期間短縮の相談が来たときに、
→ どのテストを削ると、どのリスクがどれくらい上がるかを整理して提示する
といった会話がやりやすくなります。
テストを“やらされるもの”から“コントロールするもの”に変えられるのが、1つ目の武器です。
武器2:テスト計画の「標準形」を持てる
TMのシラバスは、テスト計画書に書くべき内容をかなり細かく定義しています。
・テストアイテム
・対象外とする範囲
・アプローチ(リスクベース/要件ベースなど)
・環境、データ
・メトリクスと完了条件
これらを一通り学んでおくと、どんなプロジェクトでも使い回せるテスト計画の標準テンプレートが頭の中にできます。
結果として、
・プロジェクトごとにテスト計画の質がバラつかない
・新人や他メンバーに計画作成を任せるときのチェック観点が増える
といった効果が出ました。
「毎回ゼロから考える」時間が減るのは、かなり大きなメリットです。
武器3:コミュニケーションの共通言語が増える
TMでは、欠陥マネジメントやメトリクス、コストオブクオリティなど、
マネジメント層と会話するための概念も多く扱います。
これを一通り押さえておくと、
・品質報告会で「テストケース消化率」「欠陥検出密度」などを根拠に話ができる
・リリース後のインシデントを、「どのプロセスで防げたか」の観点で整理して議論できる
・テストチームの役割やスキルセットを説明するときに、TMの用語を使って構造化して話せる
ようになります。
結果として、PM・開発・ビジネス側とのコミュニケーションコストが明らかに下がりました。
「なんとなく品質が不安」ではなく、
「このリスクがこの程度残っています」と話せるようになることが、3つ目の武器です。
どの章を重点的に読むと「3つの武器」が身につくか
3つの武器と、TMシラバスの対応関係をざっくり整理すると、次のようなイメージになります。
・武器1(テストをコントロールする力)
→ 「テストプロセス」「テストマネジメント」「リスクベースドテスト」の章
・武器2(テスト計画の標準形)
→ 「テストマネジメント」の中でも、テスト計画・見積り・スケジューリングの節
・武器3(コミュニケーションの共通言語)
→ 「テストマネジメント(メトリクス・レポーティング)」「欠陥マネジメント」「プロセス改善」「チームスキル」の章
「この力を伸ばしたいから、この章を厚めに読む」という逆引きの視点を持つと、
学習効率も上がりますし、実務への橋渡しもしやすくなります。
まとめ:TMはゴールではなく、真のテストマネージャへのスタート
TM試験は、FLと比べると確かに難易度は高く、合格までのハードルもそれなりです。
ただ、その中身は「テストマネージャとして当たり前に考えたいこと」を、シラバスという形で整理したものに過ぎません。
本記事で紹介した
・インプット2割・アウトプット8割の学習方針
・AIとPythonを使った「惰性アウトプット」環境の作り方
上記は、私が1.5か月・80時間で一発合格したときのリアルな戦略です。
TMは、資格を取った瞬間がゴールではありません。
むしろ、「テストマネジメントを言語化して、チームや組織に還元していく」ためのスタートラインだと感じています。
この記事で挙げた3つの武器を業務の中で意識的に使っていけば、
学習に投下したコスト以上のリターンは十分に見込めます。
学習計画を立てる際には、本記事をブックマークして、
進捗と照らし合わせながら何度か読み返してもらえるといいかと思います。
業務のテストスケジュールと同様に、学習進捗を管理してみるのもマネジメントの勉強になりますよ。
この記事が、これからTM試験に挑戦しようとしている方の背中を少しでも押せたなら嬉しいです。

